漫画家まどの一哉ブログ
「ボディ・アーティスト」 ドン・デリーロ
読書
「ボディ・アーティスト」 ドン・デリーロ 作
「ボディ・アーティスト」 ドン・デリーロ 作
夫婦の平凡な日常会話から始まるが、どこか微妙にかみあっていない。それでもそもそも会話とはこんな具合に少しずつズレながら行ったり来たりしているものなのかなあと気付く。それだけではやや退屈だなと思っていると、章が変わって男の方は死んでしまう。
さらに残された主人公の女性の前に、家の最上階にこっそりと隠れ住んでいた脳に損傷のある青年が現れる。この青年が基本的な時間感覚ー過去から未来へと物事が進んでいるという感覚を持っていなくて、隠れながら聴いていた夫婦の会話をそっくりの声色で再現し始めるという強烈にくらくらする設定である。再現される会話も今現在ここでの出来事と無縁の順序で出てくる。
なんとも哲学的だが観念的な描写はまったくなくて、ふだんの生活と家とその周辺の様子がありのままに描かれる。われわれがふだん分かったつもりの現実がいったん撹乱されて、また意識的に構築し直すような不思議な読書体験を得る。
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