漫画家まどの一哉ブログ
「スピリット」
読書
「スピリット」 ティオフィル・ゴーチェ 作
ゴーチェもいろいろ読んだが、ポー、ホフマン、バルザックより後の人でありながら、いちばんオーソドックスなストーリーテラーなような気がする。この物語も片思いを抱いたまま亡くなった少女の霊との交流を美しく描いたものだが、展開はストレートで意外性はない。この時代の小説の舞台はほとんどが貴族階級であり、とうぜん働かないし、女性はいかに美しく自らを飾り訴えるか以外の関心はないようだ。劇場に置いても人々の関心は、舞台よりも観客の誰と誰の仲がどの程度進んでいるかであり、まったくショーペンハウエルが馬鹿にしてののしった生活である。
この時代の西洋幻想小説の多くがスピリチュアルな話であり、この小説のタイトルであり登場する娘の愛称がスピリット。まさに心霊譚の王道をいく話だ。それでも死んだ娘の魂は、過去も未来もなく距離と言う概念もなく、何処へでも一瞬にして移動する存在であり、宇宙は無数の光り輝く霊体に満たされているという描写は、現代に語られる臨死体験と全く同じであって興味深い。
霊体である彼女と親しく触れ合いたいからといって、自ら死を選んでしまったら、それこそ未来永劫引き裂かれた間となってしまうという設定も、ちゃんと考えられているのだった。
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