漫画家まどの一哉ブログ
「ジーキル博士とハイド氏」
読書
「ジーキル博士とハイド氏」 スティーヴンスン 作
あまりにも有名なこのお話。自分はもともとスティーヴンスンの怪奇短編は好きだったがこれは未読のままだった。話の大筋は誰もが知っているから、ここはその語り口を楽しみたいところ。
善人でいることには、どうしても多少の無理が生じる。心の奥底に眠る野性的で暴力的でエゴイスティックな衝動を、そのままに解放して生きていけたらなんとラクであろうか。主人公は悪人ハイド氏となってその裏表無き人格におおいに満足を得るのだが、このあたりは品行方正な人であればあるほど実はうなずける部分も多いのではないか。なにせ転んだ少女を踏みつけてなんとも思わないのだから徹底している。
人間の二面性を描くのは面白い作業で、普段温厚な人物があるときふと冷酷な一面を見せるなど、よくありそうなシーンだが、それを薬物の力を借りて極端な設定にまで持っていったスティーヴンスンの力技がよい。とびきりエンターテインメントな着想なのに、古くならない味わいがあって、作家でない自分にはその秘密は分からないながらやはり一流は違うのかもしれないと思った。
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