漫画家まどの一哉ブログ
「カフェ・シェヘラザード」
読書
「カフェ・シェヘラザード」
アーノルド・ゼイブル 作
(共和国)
「カフェ・シェヘラザード」
アーノルド・ゼイブル 作
(共和国)
ポーランドからナチの手を逃れ、ソビエトからも脱出したユダヤ人たち。メルボルンのユダヤ人街でカフェに集う古老達の凄絶な体験記。
ホロコーストを逃れたユダヤ人達がまさかオーストラリアで集い暮らしているとは知らなかった。この時代のポーランドやリトアニア、ソビエト政権の間で右往左往させられるユダヤ人達の物語は、今までもいろんな小説で読んできたが、この作品でもなかなかに複雑でわかりにくい。なかでもソビエトの動きにより奴隷だったり同士だったりするところなど変化も激しい。
近年有名な杉浦千畝の働きでポーランドを脱出。延々シベリア鉄道に揺られ、ウラジオストクから敦賀を経て神戸に至った人々の話は新鮮だった。シベリア鉄道では案外上客として丁寧に扱われ、神戸でもオペラを見に行くなど、ゆとりある暮らしぶりである。これは意外だった。
「水晶の夜」という言葉は知っていても、恥ずかしながらナチスの暴政が本格化する以前のポグロムについてはよく知らなかった。これもひどい惨劇だ。
大きな歴史の中の細かい揺れ動きをよく理解していなくても、個々の人物の抵抗と戦い、偶然の助けもあって生き延びていく激動の連続はあまりに面白く目が離せない。引き込まれるように読んでしまう。古老達の思い出を聞き取る若き語り手が、ときどきクッションとなって我々を現代に引き戻してくれる。
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