漫画家まどの一哉ブログ
「カッコウが鳴くあの一瞬」 残雪
読書
「カッコウが鳴くあの一瞬」残雪 作
(白水Uブックス)
表題作等ごく短いものと、やや中編をまとめた初期短編集。
後年の抜け出せない悪夢に比べれば、やや爽やかな風が吹いている悪夢といった感触。これは語り手が女性で恋愛をとりあげているところにも原因があるのだろう。それでも悪夢であることには変わりはなく、心地のいいものではない。もがいている感がちょっと薄いだけだ。
そしてもがいているのはけっして登場人物ではなく、読んでいるこちら側の役割だ。彼らはどういう場所で暮らしどういう立場であるのかはっきりしない中で、働きもせず寝たり起きたりしており生活感がまるでない。周りの人物との明快な意思疎通というものもなく不毛感が常に残る。いくつかの手がかりで像を結ぶことはできるが、それ以外は闇の中のようなものだ。
そんな状況でも彼らは泰然としており、この不可解な世界を解決する役目が読者の方に課せられてしまう。不条理の中で彷徨う主人公を読者という安全な立場から追いかけるのとは反対に、読んでいるこちら側が解決のつかない世界に追い込まれる。島尾敏雄やつげ義春など、他の夢を描いた作品と比べてもまるで快感がない。どこへもたどりつけない絶望をじわりじわりと味わうことができる。
「カッコウが鳴くあの一瞬」残雪 作
(白水Uブックス)
表題作等ごく短いものと、やや中編をまとめた初期短編集。
後年の抜け出せない悪夢に比べれば、やや爽やかな風が吹いている悪夢といった感触。これは語り手が女性で恋愛をとりあげているところにも原因があるのだろう。それでも悪夢であることには変わりはなく、心地のいいものではない。もがいている感がちょっと薄いだけだ。
そしてもがいているのはけっして登場人物ではなく、読んでいるこちら側の役割だ。彼らはどういう場所で暮らしどういう立場であるのかはっきりしない中で、働きもせず寝たり起きたりしており生活感がまるでない。周りの人物との明快な意思疎通というものもなく不毛感が常に残る。いくつかの手がかりで像を結ぶことはできるが、それ以外は闇の中のようなものだ。
そんな状況でも彼らは泰然としており、この不可解な世界を解決する役目が読者の方に課せられてしまう。不条理の中で彷徨う主人公を読者という安全な立場から追いかけるのとは反対に、読んでいるこちら側が解決のつかない世界に追い込まれる。島尾敏雄やつげ義春など、他の夢を描いた作品と比べてもまるで快感がない。どこへもたどりつけない絶望をじわりじわりと味わうことができる。
PR
COMMENT