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漫画家まどの一哉ブログ

   
「自由への道」6(魂の中の死) サルトル

「自由への道」6(魂の中の死)
サルトル
 
(岩波文庫 海老坂武・澤田直 訳)

舞台は捕虜収容所。捕虜となった共産党員ブリュネは党からの命令もないまま秘密裏に党勢拡大の努力を続ける。多くの裏切りやスパイ活動のなか、ついにブリュネは党より友情を選ぶ。文庫完結(未完)。

この巻(魂の中の死 第2部)においてコラージュ的方法は完全に影を潜め、登場人物はただ1人、マチウの友人だったブリュネに絞られる。
ドイツ占領下、ブリュネ以下フランス兵たちは貨物車で運ばれ、国内で解放されるのかと期待していた捕虜たちだが残念なことにドイツ内の捕虜収容所へ落ち着いた。極めて限定された男だけの社会だ。

第1部(分別ざかり)で登場したマチウを共産党へ誘う友情熱き男ブリュネがこの巻の主人公だが、いささか堅苦しいほどの真面目な男で、党員であることの意思が固くぶれない。しかも生活者としての個人的な幸福を放棄し、人生のすべてを共産党活動に捧げている。
なかなか彼の心情に寄り添って読んでいくのはつらいが、周りの捕虜たちは平凡な一般人であるため、サルトルの人間描写の味わいを充分楽しむことはできる。

しかしそんなブリュネが次章(奇妙な友情)では遂に党を離れ、裏切り者であったヴィカリオスとの死を賭した収容所脱出を敢行するから、ドラマとしては非常に効果的な性格設定だったのではないか。
「党なんてどうでもいい。おまえはおれのたったひとりのともだちだ」このブリュネのセリフが最も胸を打つシーンだ。

この大作はこの後まだまだ続く予定で、マチウとブリュネの役どころは逆転し、マチウを含めてダニエルやフィリップ、サラなども戦争終結までにはみんな死んでしまう構想だったらしい。第1部(分別ざかり)を書いた時とは大いに時代が変わってしまって、常にアンガジュマンを旨とするサルトルは、小説の内容にも方法にも身動きが取れないままあきらめたようだ。

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