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漫画家まどの一哉ブログ

   
「自由への道」5(魂の中の死) サルトル

「自由への道」5(魂の中の死)
サルトル 作
(岩波文庫 海老坂武・澤田直 訳)

ドイツ軍はついにパリを占領し、マチウの隊を率いる将校は逃亡。あくまで抵抗を続ける小隊に参加したマチウはついに銃の引き金を引く。

第2部「猶予」から第3部「魂の中の死」へ入った時点で時代はやや進んでいて、すでにドイツ軍はパリに入城。郊外では続々と逃げ出す人々の列が続き、長時間の移動に疲れたジャックとオデッサや幼子を抱えたサラの今後が案じられる。

夜に乗じて逃げ出した将校たち。話の大半は将校に捨てられたマチウの属する部隊のなすすべのない弛緩したようすだ。大甕にワインを満たして酒浸りになったり、それでなければウロウロしているばかりだが、こういう劇的でないシーンを描くとサルトルの筆はめっぽう面白い。戦争文学の中でもこういう描写は珍しいのではないか。

ところがまだまだ抵抗と闘争を続ける部隊が現れ、友人ピネットの自棄的な戦闘意欲につられてマチウはこの戦う部隊に参加してしまう。緊張感高まる鐘楼での狙撃作戦。意外にもマチウは意欲的にドイツ兵を撃ち殺し、ますます戦意は高揚する。
この展開がいかにも唐突かつ不可解で、あのインテリでどこにも帰属しない宙ぶらりんのマチウがなぜ突如率先して人を撃つか、文庫解説によると自分自身で時代と戦争を引き受けようとするのかもしれないが、解説されても納得はできない。

もうひとつこの巻で魅力的なのは、ゲイとして美少年フィリップを狙うダニエルだ。フィリップに出会って性的欲動に突き動かされながら、それを隠してまんまと自宅に誘い込み、慎重に慎重にことを運ぼうとする。爪を隠した猛禽のようなダニエルのいやらしさ。背徳的で息を飲むスリリングな進展。

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