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「白光」 富岡多恵子

「白光」
富岡多恵子 作
(新潮社・1988年)

血の繋がらないもの同士でつくる家族。壮年女性と若き男性たちで山間にひっそりと暮らす。女や男の役割から自由に生きる試みの行方は…。

語り手である島子と主催者のタマキは40代女性。そして同居する山比古とヒロシは二十歳そこそこの青年。タマキと山比古は他人だが親子というより恋人のような関係だ。
タマキはなにより説明が嫌いで、理屈立てるより直感で理解することをよしとする。このなにも説明しないという設定により、タマキがどういう信条でこの家を続けようとしているのかが曖昧になる。もしタマキの思想が言葉ではっきりと書かれていれば、その後の展開はこの思想を中心に、わかりやすい矛盾や反対が巻き起こるところだが、それではつまらないかもしれない。

この4人の共同生活は性的な営みも含むもので、その辺りはもっぱら女性側(島子)の視点で書かれているが、若き男性たちがどう思っているのかはわからない。なにより二十歳そこそこの青年男子が街へも出ずに、中年女性と付き合っている理由が判然としない。
タマキや島子のあらゆる役割的な人間の生き方、とくに女性としての役割を拒否する自由な生き方。これはさっぱりしていて気持ちのよいものだ。同年代の男性は理解がないが、若者なら付き合ってくれるというのは作品上の都合という気がする。


この暮らしも当然矛盾を含んで揺れ動くわけだが、理屈っぽくなく説明的でもなく書かれていて、この具体性がおもしろさの醍醐味だ。

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