漫画家まどの一哉ブログ
「犬神博士」
読書
「犬神博士」 夢野久作 作
タイトルからしてマッドサイエンティックな話かと思いきや、筑豊は直方を舞台としたひじょうに土着的なスペクタクルだった。なにしろ主人公犬神博士がまだ7歳の頃の話で、この少年は女の子の着物を着せられ両親の太鼓と三味線にあわせて大道で踊りを踊っているのである。両親は大道芸とインチキ博打で世を渡っているのだが、この少年は踊りの天才であるだけでなく、ひじょうに利発であり行動力にも優れていて、物語の果ては玄洋社と官憲及び地元ヤクザとの大ゲンカのシーンにも活躍するのだからたまらない。まさにスーパーな少年で、痛快な思いで読んでいるとその後の人生を語らないまま未完で終わるのである。
そんなわけで不思議な事はなにも起きない。怪奇幻想文学ではないのだが、現代人である我々から見ると明治期の地方都市の風俗をこんなにも濃厚なイメージで描かれると、それだけで幻想味を帯びて感じられるというものだ。
文章に賑やかさがあって、一文の中に面白いことがたっぷり盛り込まれているので読み応えたっぷり。濃密であって難解でなく、通俗的であって下品でない。これぞ夢野ワールド!と自分が言うまでもない。
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