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漫画家まどの一哉ブログ

   
「悲しみを聴く石」 アティーク・ラヒーミー

「悲しみを聴く石」
アティーク・ラヒーミー 作
(白水社エクスリブリス・関口涼子 訳)

内戦化のアフガニスタンらしき土地。植物人間となって帰った元兵士の夫を世話しながら密かに生きる女性のモノローグ。この国で女として生きる困難と不条理が浮かび上がる。

この女性は植物人間となって動かない夫の世話をしながら、自分が少女の頃からこの男の妻となり、子供を産み育て、疑いもなく献身してきたことを振り返るがあまりに痛々しく悲しい。
やはり社会自体が伝統的な男性中心主義で、この夫も典型的な戦争好きな男。「昔の格言は本当ね。〈武器のもたらす快楽を知るものを決して頼みにするべからず〉って」などの名言も。
彼女の姉は12歳で父親の借金のカタに四十男に嫁がされ、その時幼い彼女も自分の運命を知る。

何も知らないまま初めて夫に体を捧げて以来、夫は彼女の心中を思いやることはなくただただ自己中心的な性行為をくりかえすのみ。彼女が過酷な過去を振り返るモノローグはしだいしだいに高揚して、自身の人生の真実が露わになり、この辛い読書も息を呑んだまま引き込まれていく。
もちろん全ての女性が封建的な生活に耐え忍んでいる訳ではなく、彼女が慕う叔母は呪われた運命に反旗を翻し戦って身を隠した人。多様な女性が多様なそれぞれの人生を生きようとしているのだ。

リアリズムながらもはっきりと物語はあり、終盤若い兵士が彼女の体を求めて通うようになってかなり劇的なラストを迎える。やはりドラマではある。
「女は男の胸から手を離す。立ち上がり部屋を離れる。」など、地の文は視覚情報に限定して描かれる初期のアラン・ロブ=グリエふうの文体。シナリオのようだが、この著者もロブ=グリエも映画も撮る作家の共通点だろうか。

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