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漫画家まどの一哉ブログ

   
「三界の家」
読書
「三界の家」
林京子


林京子は長崎での被爆体験を中心に、自身の人生をすべてなぞって作品にしている私の好きな作家である。
この短編集では作者の父親を描いた話が心に残った。

彼女の父親は戦前M物産の上海支店に勤めるエリートであり、家族からは「とうさま」と呼ばれ、尊敬を集めていた。敗色濃厚な中国大陸、一家は父親を残したまま先に引き上げ、作者は長崎の三菱兵器工場にて被爆。やがて父親も帰国するが財閥解体の指令を受けてM物産社員という肩書きを失ってしまう。

そうなるとエリートは弱い者で、就職難の中やっと見つけたクチも雑用までやるのが苦痛ですぐ止めてしまい、昼間から家でぶらぶらである。ようやく続いているらしい職場をある日母親と作者が訪ねてみると、海岸近くの小屋の中で、ひとり伝票仕事をしていた。寂しくて呆然とするシーンだ。
母親は家政婦の職を見つけて働きに出るようになるが、そのころ閑な父親はぶらり散歩がてら母の勤め先である家庭に立ち寄り、おみやげに果物などをもらって帰る。なんとも情けない有様である。

時代が流れて老いた父親はやがて膵臓がんを患い、病院では家族総出の世話になるが、ひっきりなしにベッドのそばで付き添って寝ている母親の名を呼ぶ。しかし母は返事をしない。返事をすると甘えるからだそうである。「とうさま」と呼ばれて尊敬されていた父親は、母の中でとうのむかしに終わっているのである。

小説では父の死後、葬儀があって一族の墓を掘り起こすシーンが描かれる。父の親族に連なる何代かの人達の骨壺が出てくる。残された母親は父の骨壺を最終的に近代的なロッカー式の墓に移してしまう。自分も死後はそこに入るつもりだ。娘(作者)たちも来てよいという。父方の縁はそこで切られてしまった。作者も自分の子どもが結婚した時点で縁は断ち切り、無性としての存在に帰りたいと思うのだった。

雑感:親子というものは逃れられないものであるが、人生によっては積極的に親子の縁を切ってそれがプラスである人もいよう。ましてや親以前自分以降につながる縁は人それぞれだ。関係はないのが事実だろう。大きな意味で先祖や共同体が自分にもつながっていることは、安心して死んでいく心の支えではあるが、それは今自分の周りにいる人々がそうだと考えてもいいと思う。

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