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漫画家まどの一哉ブログ

   
椎名麟三を読む
読書(mixi過去日記より)
椎名麟三を読む

自分の読んだのは、講談社文芸文庫の短編集。
作者は戦前ごく一時期、共産党(もちろん非合法)の細胞であったが、その地下活動家としての苦悩を描いた作品が、なんだか青臭くてつまらなかった。
というわけで敬遠していたのだが、後期の短編からあらためて読んでみると、同じ共産党の細胞のはなしでも、うんとくだけていてユーモラス。

例えば「カラチの女」:遠くカラチの資産家の末娘が、婿探しに内地の日本人を希望していて、莫大な持参金つきである。という近所の食堂のうわさを真に受けて、主人公の私はぜひその娘と結婚して、大金を党の活動資金にあてようと画策する…。

また作者の少年時代の経験をもとに描かれた表題作「神の道化師」が傑作。
破綻・困窮した家庭から家出した中学生の主人公。無料宿泊所に出入りすると、そこはモルヒネ中毒者や乞食など、社会の最底辺に屯する人々の巣窟だった。ここにいてはいけないと、仕事を見つけて脱出をはかるも、同宿の中年乞食の男に溺愛され、なにかと世話になってしまう。

この小説のラスト近くを紹介。
そして準次は、あるレストランへつとめることになったのだ。もうその彼は、家出したときの彼ではなかった。立派な王城の住人になっていたからである。ただ住んでみると、その社会という王城は、彼の期待に反して実にくだらない、あわれむべきものであったが、しかし彼の捨てることの出来ないものであった。

このフレーズがいいです!

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