漫画家まどの一哉ブログ
「JR上野駅公園口」 柳美里
「JR上野駅公園口」
柳美里 作
(河出文庫)
高度成長期を出稼ぎ労働者として懸命に駆け抜けた男。やがて故郷相馬を捨て上野公園口でホームレスとして人生の最期を迎えようとする。
巻末にも挙げられているとおり、多くの資料と丹念な取材によって、かつての福島県相馬郡の生活や上野公園にたむろするホームレス達の人生と行く末が丹念に描かれ、ルポルタージュ小説のようにリアルだ。もちろんそのリアルな背景の上に主人公の戸惑いや悲しみが重ねられてゆく。
主人公の男性の人生は傍目から見ればよくある平凡なものだが、若き長男や苦労を共にしてきた妻の突然の死は、やはりやりきれない。理由のない理不尽な運命に弄ばれ、人生の最終期に孫娘の世話を絶って上野に舞い戻るのも、知らず知らずのうちに人生に虚無的なものを感じていたのかもしれない。
文庫解説にある天皇制の桎梏ももちろんそのとおりで、日本社会に根付いた国家と市井の人間の情緒的な関係があらわだ。
しかしそれはおくとして、この男性の人生は主体的にはこうなるしかなかった、あまり選択の余地のないもので、それもやはり万人にありきたりなものなのだろう。
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