漫画家まどの一哉ブログ
「高く手を振る日」 黒井千次
「高く手を振る日」
黒井千次 作
(新潮社)
1人暮らしの70代男性が邂逅した大学のゼミ仲間だった女性。美しく年を重ねた彼女に少しずつ芽生える恋情を描く。
例えばそこそこの4年生大学を出てそこそこの会社で働いて、結婚して家を買い、やがてまっとうな退職金を得て退職、子供たちも同じような人生を歩み、友人や知り合いもみなその範囲内。人生に大きな逸脱はない。という人間は日本に溢れるほどいる。私が属していないだけだ。
その、やや恵まれた平凡さの中で見れば、リタイアした高齢者に蘇る小さな恋は、それだけでも大きなドラマであり、そんなこともあるかもしれない、あったらいいのになぁ…くらいの幽けき事件で、しかもドラマとしてきれいにまとめられすぎている気がする。
この階層の外から見ると、あまりにも静かで大人しく、悪くはないがもう少し書くことあるんじゃないかとの感想を持つ。人生最後の日常身辺から題を取る作品は世の中に多くあるだろうが、生きていることは絶望と裏腹なはずだ。お金があればまた違うものなのだろうか…。愚痴のようななことを言ってすまない。
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