漫画家まどの一哉ブログ
「透明な迷宮」 平野啓一郎
「透明な迷宮」
平野啓一郎 作
(新潮社)
日常からふとはずれる異常な出来事、解けない謎を解こうとして解けない。短編6編。
ミステリーの萌芽のような小さなアイデアを、大きなドラマに組み上げないままに、すぐ放り投げたような短編が連続し、なんだか大味な感触だったが、後半の3編はよかった。文体に味わいはなく、冷たい感触があった。
「family affair」:寝たきりだった老父が亡くなったあとに、押入れの奥から発見された銃。この銃の謎をめぐって残された兄弟・姉妹や姪っ子たちの間で話が食い違ってゆく。長女はこの銃をこっそり処分しようとするが…。この作品は不思議な出来事は起こらず、方言がより説得力を増していて、面白みがあった。いちばん良かった。
「火色の琥珀」:男女間の性的な行いには興味を持たず、その代わりにひたすら灯る炎に興奮を覚える生癖をもつ男。放火でもするのかと思ったがさにあらず。彼の趣味は隠されたまま人生は静かに進む。やや耽美。
「Re:依田氏からの依頼」:交通事故のあと体内時間が狂い、ある時は数分が異常に長く感じ、ある時はあっという間に時間が過ぎ去る。誰にでも日頃感じる程度を遥かに超えて社会生活ができない。これは興味深い設定で、実際こんな症例もあるかもしれない。しかし主人公は脳神経科など医者にかかろうとは何故か思わないようだ。
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