漫画家まどの一哉ブログ
「絵葉書のように」 武田百合子
「絵葉書のように」
武田百合子 作
(中公文庫・武田花 編)
単行本未収録エッセイ「あの頃」より抜粋した54編。
武田百合子の描く亡き泰淳を振り返る思い出は、悲しくて寂しくてたまらない。特別な思い出でなく、ごく日常すぐそこにいた人が今はいない毎日。それを静かに思い出しているところがまさに無常感そのもので痛々しい。こればかりは仕方がない。
また日頃付き合いのあった文学者たちの思い出もそうだ。いずれ誰もが死んでいくことがひしひしと伝わってくる。特別に諦念といったものでもないが、抗えないものだ。
相変わらずただ街を歩き見聞きしたものが、あらためて美しく臨場感を持って伝わってくる。裏表のないそのままがある。なぜこんな文章が書けるのだろう。やはり著者本人が飾りのない人間で、見栄や虚飾といったものとは無縁に自分に正直に生きている人だからだろうか。なかなかこんな人はいない。そしてもちろん天性の文才が生んだ稀有の名エッセイ。なんども日記に書いたことだが、繰り返さざるを得ない。
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