漫画家まどの一哉ブログ
「動員時代ー海へ」 小川国夫
「動員時代ー海へ」
小川国夫 作
(岩波書店・2013年)
太平洋戦争末期。動員されて死に向かわざるを得ない青年と、彼をとりまく姉・母・配属将校たちの揺れ動く日々を描く。作者死後発見された未完の長編小説。
舞台のほとんどが港や島や船に限られていて、その描写は美しいが風光明媚といったものではない。昼も夜も主人公青年の心のままに、死に向かって近づいてゆく目で見た暗い色調を孕んだ世界だ。
少年の頃より彼の世界は不安だ。沖に黒い四角い船が現れて少しずつ近づいてくる。姉や自分を拐いにくるのかもしれない。この不気味さ。また体力はあるはずなのに急に脚が弱って歩けなる。クリスチャンの叔母は島から飛び込んで自死してしまう。なにかしら人生に寄り添う影のようなものが、常に彼と家族を支配している。
彼は配属将校の副官に目をかけられ近づきとなるが、しばらくすると副官は姉と共に姿を消してしまう。事件らしい事件が動き出したところで未完のまま作品は終わるが、未解決こそがこの作品にふさわしい。
楽しさはないが静かな暗い興奮を得る。
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