漫画家まどの一哉ブログ
「鏡川」
読書
「鏡川」
安岡章太郎
作者に連なる父方・母方の系図を遡り、明治期、故郷高知を中心にめまぐるしく変転する人生を生き抜いた人々を描くルポルタージュ小説。有名なところでは母方の遠戚に第一次若槻内閣の大蔵大臣であった片岡直温登場。この人は失言で金融恐慌の引き金を引いた人だが、ここではそこまでは描かれてなくて、出世以前の地元でのいきさつにとどまる。
また父方の遠戚に寺田寅彦もちらちらと顔を出す。
それよりなんといってもこの作品を小説たらしめているのは、やはり父方の遠戚に連なる西山麓という人のエピソードだ。ある意味主人公と言っていい。この人、母一人子一人で育ちながら幾つになってもまともに働こうとしない元祖ニートのような人なのである。親戚中でも稀代のなまけものとして名が通っていて、なにかと反面教師として引き合いに出されるようなのだ。しかし驚くなかれこの西山麓氏は雅号西山小鷹という漢詩人であり、土佐の漢詩界をリードするほどの実力の持ち主。残念ながら時代はその漢詩自体を過ぎ去って消え行くものとしているのが悲しい。
この麓さん、まったく働かないので一時同棲した遊郭上がりの女には電球と入れ歯を持って逃げられ、葬式行列の先頭で旗持ちをやって糊口をしのぎ、やがて養老院で病死するのだが、この人物がいてこそこの作品は小説になっている気がして愉快だった。
「鏡川」
安岡章太郎
作者に連なる父方・母方の系図を遡り、明治期、故郷高知を中心にめまぐるしく変転する人生を生き抜いた人々を描くルポルタージュ小説。有名なところでは母方の遠戚に第一次若槻内閣の大蔵大臣であった片岡直温登場。この人は失言で金融恐慌の引き金を引いた人だが、ここではそこまでは描かれてなくて、出世以前の地元でのいきさつにとどまる。
また父方の遠戚に寺田寅彦もちらちらと顔を出す。
それよりなんといってもこの作品を小説たらしめているのは、やはり父方の遠戚に連なる西山麓という人のエピソードだ。ある意味主人公と言っていい。この人、母一人子一人で育ちながら幾つになってもまともに働こうとしない元祖ニートのような人なのである。親戚中でも稀代のなまけものとして名が通っていて、なにかと反面教師として引き合いに出されるようなのだ。しかし驚くなかれこの西山麓氏は雅号西山小鷹という漢詩人であり、土佐の漢詩界をリードするほどの実力の持ち主。残念ながら時代はその漢詩自体を過ぎ去って消え行くものとしているのが悲しい。
この麓さん、まったく働かないので一時同棲した遊郭上がりの女には電球と入れ歯を持って逃げられ、葬式行列の先頭で旗持ちをやって糊口をしのぎ、やがて養老院で病死するのだが、この人物がいてこそこの作品は小説になっている気がして愉快だった。
PR