漫画家まどの一哉ブログ
「運命」 国木田独歩
「運命」国木田独歩 作
(岩波文庫)
早逝した独歩が最後に出した第3短編集。自然主義にとどまることなく、豊かなストーリー性をもって人生の本質に迫る。
「武蔵野」その他の印象から、なんとなく私小説的な作品を予想していたが、表題作ほか遠慮なくドラマ性の濃い作品もあって意外な気がした。なんでも書ける作家だ。
「酒中日記」:短い作品中にこれでもかというほど次々と主人公に事件が降りかかる。母親に大金を盗られたその日に大金が入った鞄を拾うなど、やや作りすぎな印象はある。気立ての優しい主人公の運命は悲惨だが、この日記が平穏な現在から過去のことを思い出して書いているので、それがひとつのクッションとなっていた。だが結末はやはり悲しい。
「悪魔」:少年時から腕白者で宗教(耶蘇教)など信じなかった主人公だが、思いを寄せる彼女や牧師の俗物性に比べるとやはり資質が違う。群れることなく一人遊びをしているタイプであることからも彼の人生は求道的なものにならざるをえない。
「非凡なる凡人」:山気があって大志を抱く人物は多いだろうが、たいてい特別な才能もなく現実はなにも変わらない。ところがこの人物は根気と計画性だけはあって、こつこつと努力を積み上げ、ほんの少しは前進する。大成しないかもしれないが、こんな人物もおもしろいものだ。
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