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漫画家まどの一哉ブログ

   
「緑の瞳・月影」
読書
「緑の瞳・月影」
ベッケル
 作

スペインの国民的詩人ベッケルの幻想的短編集。詩人に疎い自分はこの作家を知らなかった。詩作は非常にわかりやすい平易で簡潔なもののようだが、この小説作品も同じく平易な読みやすい文体で、するすると流れるように読めて楽しい。幻想文学の王道を行くような内容で夢幻を楽しむことは出来るが、この作者ならではの特異な発想となると、いまひとつ感じられなかった。わかりやすいのだが…。

「白鹿」:狩猟を好む名将ドン・ディオニス一行はある山村で土地の男の不思議な体験を聞く。それは鹿の群れの足跡はあるのに鹿は見えず、精霊たちの話し声が聞こえ、不思議な女たちの話し声・笑い声とともに、一頭の白鹿が現れ他の鹿たちを連れながら走り去ったというものだ。一行のなかのガルセスという男が話を真に受けて川辺で夜を明かし、目の前に現れた白鹿を射ると、鹿が姿を変えた精霊は名将ドン・ディオニスの娘コンスタンサであった。

「怨霊の山」:そのむかし貴族と教団の間で戦いがあり、多くの人が死んだ怨霊の山。毎年万霊祭の夜が来ると亡霊が歩き出し狼どもが吠え回る。ある昼間、伯爵の息女ベアトリースは同じく子息アロンソと山を通った際、水色の肩衣(かたぎぬ)を落としてきたことに気付く。しかし既に万霊祭の夜。勇気を試される如く意を決して怨霊の山へ落とされた肩衣を探しに向かったアロンソ。明くる朝ベアトリースの寝室に置かれた血まみれの肩衣。そして山中で狼に食い殺されたアロンソの死体が発見された。

「はたご屋『ねこ』」:セビーリャ、サン・ヘロニモの修道院近くにあるはたご屋「ねこ」。古いながらもアンダルシア生粋のたたずまいを持つこのはたご屋に、人々は集い飲み、歌い、楽しく一日を過ごす。ひときわ美しい若い娘アンパーロ、彼女に思いを寄せるギター弾きの青年がいた。
しかし十年後、再びその地を訪れた時、はたご屋の近くには墓地が出来、人々は遠ざかり、店は寂れ、若い娘アンパーロは金持ちに引き取られてしまい、深い心の傷を負った青年はあわれ座敷牢の人となっていたのだった。


幻想文学の王道はほとんど悲劇である。

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