漫画家まどの一哉ブログ
読書
「短編小説日和」 西崎憲 訳
英国異色傑作選というサブタイトルがついているだけあって幻想味豊かな小品集。
いわゆる文豪ではない作家が多く、自分などは初めて読む作家がほとんど。自分の苦手なオチでびっくり的作品もあるにはあったが、多種多様で楽しかった。
ところで文庫巻末の短編小説論は大枠はつかみながら、面白さの根幹には迫っていない気がした。この論考の中にあるように、AI(人工知能)に文学的構造をもとにある主題を与え、短編小説を書かせて、それを例えばチェーホフ風にアレンジさせることは簡単にできるかもしれない。ただその場合、作者は誰になるのか?などという問題より、作品自体が絶対面白くならないと思う。なぜならそれは経験知しか材料がなく、プロットや文体以外の予測がつかない部分が何もないからだ。小説も漫画もそこが面白いのだし、他人には容易に解説できない(作者本人にも)部分がキモなのです。
「豚の島の女王」ジェラルド・カーシュ:無人島で新種の人類かと見紛う不思議な遺骨が発見される。孤島に漂着したサーカスのフリークス達は、いかなる最後を遂げたのか。異色の発想。
「看板描きと水晶の魚」マージョリー・ボウエン:水晶で出来たうつくしい魚の置物が2体あり、河に放すとキラキラと泳ぐ。ジェームズ卿は看板描きを殺害して水晶の魚を奪ったのだが、婚礼の日に殺されたはずの看板描きに自分も殺された。と思うと死んだジェームズ卿は川岸で女と看板描きの行方を見ているのであった。なんとも夢幻的な世界。
「小さな吹雪の国の冒険」F・アンスティー:おもちゃ屋でスノードームに見入っているうちに、おとぎの国に迷い込み、囚われの身となっている王女を竜から救い出すこととなるファンタジー。竜と対決するのに弁護士としての訴訟能力を最大限発揮しようとする主人公と、王女様とのズレっぷりがおかしい。
「輝く草地」アンナ・カヴァン:なぜ危険なロープと滑車を使ってまで、切り立つ崖に生い茂る雑草を刈らねばならないのか。荒涼たるカヴァン的心象風景。