漫画家まどの一哉ブログ
「熊楠と幽霊」 志村真幸
「熊楠と幽霊」
志村真幸 著
(インターナショナル新書)
民俗学の巨人熊楠の体験した心霊体験は果たして真実か?合理的な立場を離れなかった熊楠の人間的な生き方が見えてくる。
留学時代は超常現象を全て否定していた熊楠が、郷里和歌山に帰り那智熊野で暮らし始めてから幽体離脱や予知夢などさまざまな霊的体験を語り始める。その動機を頭痛など自身の身体と精神状態への不安や、父親の期待を裏切った悔恨から解き明かしてゆく極めて興味深い論考。人間くさい熊楠が見えてくる。
結婚して子供も産まれ生活が落ち着いてくると、心霊現象への興味も薄れてくるが、それでよかったと思う。なんと言っても私の熊楠に対する印象は歩く百科事典というか、思想的な深みよりも広く浅く(浅くと言っては失礼だが)膨大な資料を蒐集・網羅する超人的な人間で、心霊研究もひたすら世界中の著述や事例を披露することに邁進する。
体験した夢のお告げやテレパシーにしても、誰にでもある自己愛や承認欲求のままにいかにも不思議な体験があったように披瀝されるが、それが驚異の博覧強記を伴う他の事例とともに語られるので説得力を持つのかもしれない。
水木しげる「猫楠」も登場。熊楠本人の猫イラストも愉快。
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