漫画家まどの一哉ブログ
「死者の百科事典」 ダニロ・キシュ
読書
「死者の百科事典」ダニロ・キシュ 作
(創元ライブラリ)
旧ユーゴスラビアの作家。不思議な出来事の中に人間の愚かさをテイストして、格調高く仕上がった短編の数々。
手を変え品を変え、変幻自在な語り口で描かれた幻想譚だが、どの作品も登場人物の視点に入り込むことからは一歩退いた、基本的に冷静な客観的な叙述という感触がある。過去文献を紐解くような、なにかしら研究書のような味わいは、違うかもしれないがボルヘスのような印象がある。
表題作「死者の百科事典」は、無名の人生を生きた市井の人々の詳細な伝記集であるし、「師匠と弟子の話」も詩人で哲学者もある師匠の聖書解釈の業績を惨憺たる手縞をもって追いかける自称弟子の話。中編「王と愚者の書」は密かに進められる反キリストの運動を追った書が、そもそも誰の著作を始まりとし、いかにして長い年月を経て人々に受け入れられたかを明らかにする。
この作品など、その文献や人物をしっかり把握しながら読んでいくと、かなり面白い出来だと思うが、残念ながらいささか根が享楽的な自分には上滑りな読み方しかできなかった。
そんなわけで書をめぐる冒険集のような味わいがあり、他の短編もみんな面白いのだが、反面図書館で歌って踊ったらいけないような気の抜けなさがある。
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