漫画家まどの一哉ブログ
「アンチクリストの誕生」 レオ・ペルッツ
読書
「アンチクリストの誕生」レオ・ペルッツ 作
(ちくま文庫)
自分の息子がアンチクリストだと信じ込んだらどうするのか。幻想味溢れる豊かな着想とストーリー展開。手練れのエンターテナー、ペルッツの短編集。
「アンチクリストの誕生」:ここに登場する悪党3人組の設定の面白さ!細身の剣を持ち貴族のような出で立ちだが、頰に膏薬を貼った赤ひげの粗野な男。相方の司祭のような格好で始終うすら笑いでちょこまか動く落ち着かない小男。そして二人のボスは黒一色をまとった長身蒼白の口をきかないサーベルの達人。まるで劇画から抜け出たようなエンタメの王道をいくキャラクターではないか。
主人公の靴直し屋とその女房の過去や、アンチクリストとして生まれた赤ん坊の運命など、気が気でない展開に目が離せない。ページをめくるのが怖かった。
この表題作以外の短編も、月に呪われていると妄想する男爵「月は笑う」、降霊術で生きている人間を呼び出したらどうなるか「ボタンを押すだけで」、捕虜として療養所で暮らす何年もの間、たった1日の新聞のみを与えられたら…「一九一六年十月十二日火曜日」など、奇想ばかりでみな面白く、しかも文章は格調高く読んでいてこころ豊か。おお、これぞ不朽のエンターテイメント。
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