漫画家まどの一哉ブログ
「極楽船の人びと」 吉田知子
読書
「極楽船の人びと」吉田知子 作
(中公文庫)
世を捨てて人生の終末を迎えようとする大勢の人々を乗せ、行方定めぬ極楽行きの客船が出航する。乗客は老若男女といいながらもやはりある程度歳をとった人間が多いようだ。語り手の女性は最初船内をあちこち探検してその様子を説明するが、やがて次々と乗船した客が語り手となり、いつのまにやら最初の女性は登場しなくなってしまう。閉ざされた環境設定で、さまざまな人生が描き出される。
登場する人間は実に平凡であるのに突然非日常な世界に投げ込まれて、読み出すやいなやワクワクとする。乗船しているのがまさに家族や夫婦間の問題で疲れ果てた人びとで、そこには作者得意のシュールな表現はかけらもないのだが、切々として引き込まれる。なかでも身体弱き妻に頼られながら、だんだんと認知症を発症させていく夫の話はおそろしくも悲しい。
作者はこの作品をそれこそあてのない航海のごとく、設定だけして先のことを考えずに書いたそうだが、たしかにオムニバス的にいろんな話が書けるので良い方法かもしれない。ところがこの作品は極楽船自体も荒れ狂う台風の中で被災し、だんだんとスラム化していくので二重に楽しめる仕掛けになっている。作者はかなりいろんなことができる人のようだ。
「極楽船の人びと」吉田知子 作
(中公文庫)
世を捨てて人生の終末を迎えようとする大勢の人々を乗せ、行方定めぬ極楽行きの客船が出航する。乗客は老若男女といいながらもやはりある程度歳をとった人間が多いようだ。語り手の女性は最初船内をあちこち探検してその様子を説明するが、やがて次々と乗船した客が語り手となり、いつのまにやら最初の女性は登場しなくなってしまう。閉ざされた環境設定で、さまざまな人生が描き出される。
登場する人間は実に平凡であるのに突然非日常な世界に投げ込まれて、読み出すやいなやワクワクとする。乗船しているのがまさに家族や夫婦間の問題で疲れ果てた人びとで、そこには作者得意のシュールな表現はかけらもないのだが、切々として引き込まれる。なかでも身体弱き妻に頼られながら、だんだんと認知症を発症させていく夫の話はおそろしくも悲しい。
作者はこの作品をそれこそあてのない航海のごとく、設定だけして先のことを考えずに書いたそうだが、たしかにオムニバス的にいろんな話が書けるので良い方法かもしれない。ところがこの作品は極楽船自体も荒れ狂う台風の中で被災し、だんだんとスラム化していくので二重に楽しめる仕掛けになっている。作者はかなりいろんなことができる人のようだ。
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