漫画家まどの一哉ブログ
「断片的なものの社会学」 岸 政彦
読書
「断片的なものの社会学」岸 政彦 著
「断片的なものの社会学」岸 政彦 著
世の中全体とはなんだ?
著者が社会学者であることを読んでいる我々が忘れてしまうほど、市井のただなかでモノを見る。学識豊富であることが壁(限界)になっていないという希有な才能かも知れない。
例えば散歩中に見かけたビルの窓からエレベーターを待つ人を見つけたなど、まったくなにげないなんの意味もないが、なにかふと気になることを書き留めている。ここまで小さなことをわざわざ文字にすると、人間の日常感の由来のようなもの、ごく微弱な電波をセンサーに引っ掛けながら、そして自分も発信しながらこの社会ができているような感覚を再発見する。
発見されなかったヘンリーダーガーがいたかも知れない世界や、そもそもダーガーがいなかった世界。ということを知られない世界。そんなふうに視点をゼロから拡げて考えてみて初めて気付くことがある。
著者はこどものころ、道ばたに落ちている小石を拾ってきて、その色や形を飽くこと無く見つめていたという。このなんでもないものを凝視する才能がこのエッセイ集を成り立たせているようだ。
もちろんふだんのフィールドワークで、流しのギター弾きのおっちゃんやセックス産業で働く女性などのインタビューもあり、われわれがしらない世界の話をきく楽しみもあるが、もっとなにげない平凡な出来事から全て繋がっている。
さて著者と同じように世界を感じるかどうかは人による。ということは人の数だけ世の中全体があるのだ。
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