漫画家まどの一哉ブログ
「掃除婦のための手引き書」 ルシア・ベルリン
「掃除婦のための手引き書」
ルシア・ベルリン 作
(講談社文庫)
波乱万丈の人生から生まれた魂を揺さぶる言葉の魔術。熱く美しい世界に押し流されて息つく暇もない短編集。
作者の人生をベースにした短編だとわかってはいるものの、これだけ次から次へと波乱含みの様々な内容だと心が疲れてしまってついていくのが大変だ。
幼い頃の話では父親の鉱山技師という仕事がけっこう上流階層であることを知る。また彼らが周囲の低階層住民と共産主義者をどんな目で見ているかもわかる。
やがて彼女は4人の息子を育てるシングルマザーとなりアル中にもなるが、息子たちはけっこうしっかりしているみたいだ。仕事は掃除婦などブルーカラーもあるが、教師として刑務所で若い奴らに教える経験もあって面白い。
作品はすべてごく短いものだが、事態の進行に躊躇がなくアクセルは常にベタ踏み。物語的には上質の素材をバッサリ大胆に切りさばいたようでいて、実は料理人の腕が存分に生かされた美食だ。さばさばしているのだが乱暴でなく充分に拵えられた言葉でできている。あたりまえと言えばそうだがこれが文芸だ。それでなくては読めないだろう。
過酷な人生だとしても読んでいて沈むようなところはないのは、彼女が全てを肯定的に受け入れているからで、この人生に対する全体的な肯定感が救いになっていると思われる。
PR