漫画家まどの一哉ブログ
「誘惑者」 高橋たか子
「誘惑者」
高橋たか子 作
(小学館 P+D BOOKS)
昭和25年。生きることに厭いた女学生・鳥居哲代は自殺志願者の友人を幇助する目的で三原山火口へと向かう。友人の自死をしだいに避けられないところまで導く誘惑者としての彼女の生き方は?
二人の女学生が三原山へ登り帰りは一人だけ。これが二度繰り返される。けっして謎解きではないが、きわめてミステリアスな全編不穏な色合いで塗られた長編小説。
主人公鳥居哲代の抱えた深い虚無が彼女の動向のそこここに垣間見られ、人間的なぬくもりから始終引き離される。自死に至るだけのきっかけを持たない彼女が、死のうとする友人を無意識に誘導してしまうのが恐ろしく、常に冷たく感情を持たないような人間が、果たして友人をほんとうに自殺させてしまうのか、それこそミステリーを読むように緊張して読んでしまう。
分野としては純文学であるが、作者にはストーリーを面白く組む天性の能力があるらしく、2回の三原山火口投身の事件の間に、悪魔学研究家宅への訪問を挟んだり、大学での資本論を読む会の青年との会話シーンなど飽きさせない。
今まで読んだものはわずかだが、自分に向いていると思っていた作家なので、もう少し読んでみよう。
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