漫画家まどの一哉ブログ
「十蘭錬金術」 久生十蘭
読書
「十蘭錬金術」久生十蘭 作
(河出文庫)
フランス、南極、樺太。海に空にさまざまな冒険実話から創作まで、ただならない事件ばかりを集めた短編集。
例えば「南極記」。「見るかぎり白一色に結晶し、白金よりも堅く厳しい大氷原のただなかで、眼をくすぐるような都雅な色彩に接しようなどとは思っていなかった。」この格調高い凛とした筆致。あくまで主知的で、抒情に流されることを笑うかのような語り口。この怜悧な眼差しでままならない社会や人生を描写されては、もう参りましたと降参して読むしかない。今さらに思う。これもまた時代を超えるエンターテイメントの完成形。
「勝負」:あの山田風太郎を唸らせた逸品とのこと。ひとりの女性をめぐる二人の男性(夫とその友人)。体躯も大きく性格も男性的な友人が最後には勝つのは、やはりなんとなく寂しい。
「プランス事件」:行方不明となったプランス判事は、地方鉄道の線路上で轢死していた。政権の闇をめぐる、あたかも下山事件を彷彿とさせるドキュメント。しだいにプランス判事が不品行な人物に仕立て上げられるところなど、まさに闇。
「海と人間の戦い」:4つの有名な海難事件のルポ。タイタニックも登場。大洋に筏やボートで投げ出されると人間は恐怖に耐え切れず正気を失うらしい。恐ろしい。
「公用方秘録二件」:安政年間。フランス使節団をもてなす側の下級武士団。主人公は動物好きのおとなしい侍の印象だが、いざフランス人公爵との西洋式決闘となったとき、意外にも熟慮と腕がある。これは興奮。