漫画家まどの一哉ブログ
「沈黙」 ドン・デリーロ
読書
「沈黙」ドン・デリーロ 作
(水声社)
突然の大停電に襲われた街で、とあるマンションの一部屋に集まった5人。会話ならぬばらばらの沈黙がひとりひとり訪ずれる。
飛行機の不時着事故から始まって、街は停電になり、それでもフットボールの試合をみんなでテレビ観戦しようと予定していた5人は部屋に集まった。
パニック小説かと思いきやそうではなく、突然の停電に右往左往する街の人々の様子は、後半一瞬触れられる程度で事体自体の進展はまったくない。
ほとんど部屋の中のシーンで、夫婦や友人が5人も集まっているのに、今回の状況についてあたふたと語り合ったりしない。沈黙であり、モノローグである。ただ一人物理学の若手教師である青年が憑かれたようにとうとうと、アインシュタインの言行をもとに文明世界を概観して喋っている。彼がやや異常な役割だが、あとの4人はきわめて日常的なぼんやりした思いが頭の中を行き来していて、ときどきふと人生や世の中をふりかえるばかりだ。
この静かな静かな展開を楽しめるかどうかがこの作品を受け入れる鍵だ。私にはその力はなかった。
PR