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漫画家まどの一哉ブログ

   
「偉大なる時のモザイク」 カルミネ・アバーテ
読書
「偉大なる時のモザイク」
カルミネ・アバーテ 作
(未知谷)

アルバニア系住民が多く暮らすイタリア半島長靴の底。500年前オスマントルコの迫害を逃れてアルバニアからパパス(聖職者)の指導のもとにアドリア海を越えた人々がいた。村を作り自分たちの教会を立てることを目指す。
はるか時を超えて現代、パパスの末裔アントニオは鎖国独裁政権となったアルバニアから訪れた興行団の踊り子に魅せられ、フィアンセを捨ててまで彼女を手に入れようと奔走する。

過去と現代を行ったり来たり、大いなる時間そのものが主人公のような物語。ふだん意識しないがイタリアといってもアドリア海を挟んですぐ目の前にバルカンの国々がある。
南イタリアに渡った最初のパパスや2代目・3代目パパスたちの苦労話は空想の羽をのばして書かれた歴史物語。アルバニアに戻ってオスマントルコとの戦いに殉じようとする者たちもあり、ロマンあふれる面白さだ。

翻って現代の村人たちのいざこざは、大いにあるだろう村社会のリアリズム。なかでもアントニオ・ダミスという男は融通の利かない堅物の役人でありながら女に関しては野放図な、小説的にはたいへん魅力的なキャラクターで、恨みを持つ村人に命を狙われながらも、国を捨てて独裁政権下のアルバニアに女を追いかけて行くところなど目が離せない。

親の世代、子の世代でそれぞれの物語が受け継がれてゆく。天才モザイクタイル工芸家の工房に集う若者たち。彼らがこの工芸家からモザイク壁画作品の主題を聞くかたちで古い移民たちの歴史が語られて行く。
大学を卒業したばかりの青年ミケーレが全ての物語の進行役だが、彼が仲間と大いに飲んでハメを外したり、卒業パーティーを開いたり、村へやってきたアントニオの娘に恋をしたりと、青春小説・教養小説のような部分が何故かかなり多くあって(個人的にはまったく興味が持てないのだが)、そのせいでこの作品は劇的な社会小説というより、うんと平穏な日常世界の味わいを醸し出している。

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