漫画家まどの一哉ブログ
「不思議な少年」 マーク・トウェイン
「不思議な少年」
マーク・トウェイン 作
(岩波文庫)
平凡な3少年の友人として突然現れた天使サタン。天界の住人として万能の力を持つ彼は、人間の救い難い愚かさ・残酷さを容赦なく明らかにしてみせる。
なんとなく遠ざけていた著者代表作だが、まさかこんな内容だとは思わなかった。不思議な少年であるサタンは天使であり、人間より遙かに優れた存在なのでなんでもできる。簡単に時空を飛び越え一瞬で過去へも未来へも行くし、誰の意志をも自在に操る。運命も操作できる。ここまで万能のかけ離れた存在を設定すると、話はなんでもありで面白くないんじゃないかと疑念を持ったが、これが面白い。
彼サタンは人間など目に見えない小虫くらいにしか思っていないので、問題解決のため簡単に殺したり発狂させたりしてなんの痛痒も覚えない。我々が共有するヒューマニズムの視点を超えて、人間の愚かさ・残酷さ・卑小さを徹底的に明らかにする。しかもそれを人間のみが持つ良心という名で呼ぶとは、なんとアイロニカルな視点だろう。
しかしこれはアイロニーではなく事実だから仕方がない。長い歴史の中で飽きることなく権力闘争・殺戮・戦争を繰り返す、残忍で卑屈で愚かなる人類。晩年のマーク・トウェインがたどり着いた絶望は残念ながら正しい。しかしご安心あれ、サタンの言うように人生は全て幻。存在とは虚しい永遠の中をただひとり永劫にさまよい歩く一片の思惟にすぎないのだから…。
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