漫画家まどの一哉ブログ
「ヴァニナ・ヴァニニ」 スタンダール
読書
「ヴァニナ・ヴァニニ」スタンダール 作
(岩波文庫)
「ヴァニナ・ヴァニニ」スタンダール 作
(岩波文庫)
文豪スタンダールの短編集。
表題作と巻末中編「ミーナ・ド・ヴァンゲル」は純粋な創作物語だが、その他の「チェンチ一族」「パリアノ公爵夫人」「サン・フランチェスコ-ア-リパ」は歴史上の実話に題をとったドキュメント小説である。スタンダールは16世紀にイタリアで起きた事件簿の古写本を入手しており、貴族社会で実際に起きたスキャンダラスな恋愛事件や殺人事件など、興味深いネタには事欠かないようだ。
たとえば「チェンチ一族」では先ずスタンダールなりのドン・ジュアン論。その発生がキリスト教以降の産物であることを説いてからおもむろに本編へ入るなど演出も心憎い。また「読者はこのように長い物語に倦かれただろうと思う」という終わり方も素敵だ。これらの歴史小説は歴史その儘に森鴎外が書いたと言われても、また誰か現代作家がよく調べて書いたと言われても、つい本気にしてしまうほどの古さびたところのないキレのある出来栄え。
それは純粋な創作短編のほうにも言えることで、話はサクサクと進んで快感がある。「ミーナ・ド・ヴァンゲル」の主人公ミーナは男気のある、こせこせした女性社交界の集いには馴染まない、ストレートに自分の意思を通す女性で、こういう強い女性がよく書けているなと思う。それだけに恋の話と言ってもただごとではないドラマティックなおもしろさだった。
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