漫画家まどの一哉ブログ
「ロレンザッチョ」 ミュッセ
読書
「ロレンザッチョ」ミュッセ 作
(光文社古典新訳文庫)
史実「メディチ家暗殺事件」を題材に、腹心の部下を装うロレンゾが暴君アレクサンドルを暗殺するまでを描いた傑作戯曲。
文庫本自体は3分の1ほどが解説であり、戯曲としての歴史的経緯と実際に上演された様子。またこれまで研究された人物解釈、演劇史上の位置づけなど、これはこれで非常に興味深いが、素人読者としてはそこまで深入りして読み込もうとはしなかった。
そういった趣きの脚注を飛ばして読めば、劇自体はたいへん面白く、新訳による人物のあらわな性格など典型的でわかりやすさがある。暴君アレクサンドルはいかにも下品で暴力的な男であり、対する共和派勢力の首領フィリップも父親的な役割でありながら貴族階級の代表者。野心家の枢機卿なども、やはり陰謀家そのものの男。
そしていちばん謎めいているのが主人公ロレンゾであり、暗殺を企む彼がすでにアレクサンドルの腹心として肉体関係も疑われるほどに寄り添っているので、なぜ彼がそこまでするに至ったかが不思議である。
しかしロレンゾをも、わざと軟弱者のフリをしている正義漢として単純化してしまうとこの話はつまらない。劇中の長台詞も屈折する彼の内心をなぞっていて、この人格設定であってこそ読むに耐える作品となっている。
その意味ではロレンゾが暗殺の決意に至る過程を描かないでいるのも演出上の秘訣かもしれない。
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