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「ホーム・ラン」 スティーヴン・ミルハウザー

「ホーム・ラン」
スティーヴン・ミルハウザー 作
(白水社 柴田元幸 訳)

奇想短編小説の名手ミルハウザーによる短編集。幻想味溢れる作品以外にも現実的なもの、観念的なものなど多彩。

「私たちの町で生じた最近の混乱に関する報告」「Elsewhere」など、街全体に不思議な事態が少しずつ起きてだんだん如実になってゆくという展開は、ショートSFの定番かもしれない。
「息子たちと母たち」は久々に実家を訪ねてみると老いた母が認知症らしいという珍しく現実的な作品だが案外良い。

「十三人の妻」:自分の十三人もの妻のそれぞれの個性と自分にとっての役割を順に紹介。といってもその妻たちは現実離れしたかなり観念的な存在で、常にほかの若い男と一緒にいる妻や、剣を隔てて触れ合うことがままならない妻はまだいいとしても、宙に浮かんでいる妻や、起こらなかったことの総和である妻、記憶にはあるが不可視の妻など、あまりに逸脱していておもしろい。

「若きガウタマの快楽と苦悩」:ガウタマとはゴータマ・シッダールタであり、ブッダが王子としての身を捨て国を捨て、求道者として目覚めるまでの物語である。この作品がいちばんワクワクと読めた。彼は父親である王によってかなり過保護に囲われ、城の領域外の世界へ出られず生老病死から遠ざけられている状態。大掛かりな映画のセットの中に置かれているようなもの。これがありえないほど極端で空想的なので、この作品を砕けた気持ちで読むことができる。

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