漫画家まどの一哉ブログ
「海の乙女の惜しみなさ」 デニス・ジョンソン
「海の乙女の惜しみなさ」
デニス・ジョンソン 作
(白水社EXLIBRIS 藤井光 訳)
現代最高のアメリカ人作家と評価される著者の遺作短編集。
一人称で書かれた文体が生き生きと感情豊か。出来事がすべて面白く、追うように読まされてしまう。
「アイダホのスターライト」:アルコール依存症治療センターに入所中の主人公が、あらゆる知人に手紙を書く。どうやら家族揃って破滅型なようだが、手紙の宛先は支援者からドクター、パウロ法王、サタンにまで及び、感謝と戦いの告白が続く。
「首絞めボブ」:刑務所で暮らす自分とイカれた同僚連中の生き様を独白。「アイダホのスターライト」と並んでワイルドな世界を、これもやや乱暴な言葉で描いて愉快。
「墓に対する勝利」:都会を離れて牧場で暮らしているらしい老作家。その生存を確認するために訪れると、彼は死者の幻と共に生きていた。並行して病院で死を迎えようとする知人の最期の日々が描かれ、やがて皆死んでいく思い出の日々。生との端境で死とともに生きる。これがいちばんの傑作だ。
「ドッペルゲンガー・ポルダーガイスト」:エルヴィス・プレスリーには実は死産した双子の兄弟がいて、本当は生きていたその兄弟が、本物のエルヴィスと入れ替わっていた。この大胆な仮説を信じ、自身の詩作を放擲して謎の証明に人生を費やす才能ある詩人。この分身と亡霊の種明かしは語り手自身にも及ぶ。ミステリアスにかなり仕込まれている。
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