漫画家まどの一哉ブログ
「ハルムスの世界」 ダニイル・ハルムス
「ハルムスの世界」
ダニイル・ハルムス 作
(白水Uブックス)
スターリン政権下の弾圧により獄死した前衛作家ハルムス。世界に先駆けて書かれた実験的不条理文学。
ナンセンスをベースとして書かれた小話のようなものといえばそうだが、笑い自体を目的としていないため置いて行かれたような感覚があり、まさにそこが不条理文学の味わいか。手を替え品を替え、かなり多彩な手法が使われており、文学としての成り立ちを破壊してしまう不届きな面白さがある。
解説によれば関係性の欠如、意味や理由のない偶然的存在。といった人間の不条理的側面を捉えた作品群なのだが、読んでただちにそれを感じるかというと案外人それぞれだと思う。作風から言ってそれほど大袈裟な理解でなく、単に笑っていればいいようなものも多い。そもそもなにを不条理と捉えるかが人によって違うだろう。
それより代表作「出来事(ケース)」のようなきわめて短い小話よりも、ある程度長さがあって既存の小説のスタイルを持っていた方が逆に不条理感を感じる。傑作コレクションの「朝」など9ページ近くあり生活感もある内容だが微妙に納得できない不思議な展開であり、これくらいのバランスが妙味というところだ。
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