漫画家まどの一哉ブログ
「ヌメロ・ゼロ」 ウンベルト・エーコ
読書
「ヌメロ・ゼロ」ウンベルト・エーコ 作
(河出文庫)
大衆向け日刊紙の創刊企画のため集められた編集者達。創刊準備号(0号)発刊のため連日会議や取材に励むが、実はこの企画自体が大きなフェイクなのだ。エーコ最後の長編。
底辺ではあるが登場人物は手練れの俗流ジャーナリストばかりで、社会派というとちょっと違うが、冷たくてざらざらした感触。こういった作品を読むのは個人的には珍しい体験だった。
世間のゴシップをいかに責任を取らない形であおり立てるか、歴史の闇を興味本位でどのように掘り起こすか、通俗に徹した編集技術があれこれと駆使される。
加えて小説としての膨らみには、この企画の裏事情を知っている主人公の編集長と唯一の女性編集者との恋愛があり、同僚の編集者が追求する政治史の闇など。とくにムッソリーニは生きていた説には延々とページが割かれ、イタリア史に詳しいはずがない読者としてはついていくのはいささか大変である。
それでもなかなかミステリアスで面白かった。ちなみに私には他のウンベルト・エーコ体験はない。
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