漫画家まどの一哉ブログ
「サハマンション」 チョ・ナムジュ
「サハマンション」
チョ・ナムジュ 作
(筑摩書房・斉藤真理子 訳)
少数の資本家が国民を支配する独立都市国家「タウン』。取り壊し寸前の「サハマンション」に暮らす国家から捨てられた人々。その果敢なる人生と絶望を描く近未来ディストピア小説。
冒頭でこの異常な独裁国家と分断された住民の設定を全部説明してしまって、さて個々の人々の話が始まると、暴力や殺人など劇的な出来事の連続である。いかにもエンターテイメントの方法を裏切らないので、ついていけるか心配したが内容はそれだけではない。
救われるのは単線的なストーリー展開になっていないところで、「サハマンション」に暮らす人々の苦難の人生が、入れ替わり立ち替わり30年の時間を行きつ戻りつしながら描かれる。
基本的人権の対象とはならず、電気や水道などの社会的インフラ、医療や教育なども自分たちでなんとかしなければならない。国家から捨てられた人々(棄民)は、実際世界中に今現在も存在するだろう。
そのありさまがしっかりと描かれていて、社会派小説として充分の読み応えがある。
ところがやはりこれは近未来ディストピアファンタジーで、最終章に近づくと思い出したように、研究室で実験対象にされる人々や、国家中枢へ侵入するクライマックスなど、SFバイオレンスに変身する。その辺りはジャンルにとらわれない異色作(?)である。
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