漫画家まどの一哉ブログ
「あなたまかせのお話」 レーモン・クノー
「あなたまかせのお話」
レーモン・クノー 作
(国書刊行会・塩塚秀一郎 訳 2008年)
小説に限らず戯曲・エッセイなど、雑誌等に掲載された小品を集めた短編集。巻末にラジオ対談「レーモン・クノーとの対話」を収録。
なにかふんわりした、完成されているのに完成感のない不思議な手触り。就寝前に聞かされているおとぎ話のような浮遊感がある。
「ディノ」「森のはずれに」:この連作ではディノという人語を操るというか人間と変わらぬ知性と感情を持つ犬が現れたり消えたり、いるのかいないのかわからない。ところでディノの声を聞けるのは語り手の男だけである。ディノは冷静な落着いたやつである。
「トロイの馬」「エミール・ボーウェン著『カクテルの本』の序文」:ここでは馬が人間と同じように喋るんだけども、こちらはディノと違って酒場で話しかけてくる気のいい酔っ払いで、ちょっとめんどくさいけど悪いやつじゃない。どこにでもいるやつ。所作はリアルに馬なのだが、それ以外の人間たちの日常風景は雰囲気のあるリアリズム作品で楽しい。
という具合でどこかとぼけている作品が多いが、同じ内容を人物をそっくり入れ替えてくりかえす戯曲「通りすがりに」や街中で聞きかじった会話を集めた「パリ近郊のよもやま話」、読み手が次に続くフレーズを自由に選択して繋いでゆく「あなたまかせのお話」など実験的な作品も多く、けむに巻かれる印象だった。
巻末とはいえ全体の3分の1もあるラジオ対談「レーモン・クノーとの対話」は好きな部分だけ読んだ。
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