漫画家まどの一哉ブログ
「ゲーテとトルストイ」
読書
「ゲーテとトルストイ」 トーマス・マン 著
ゲーテとトルストイは、どちらも裕福な社会階層の出身で、頭脳明晰なうえ体力も運動神経も勝っているという怖いモノなしの人間だ。自然状態で動物としての生存能力が高く、実際長生きした。
さて、ゲーテは自分の才能を「まったく自然のもの」と考え、芸術的創造は「自然」の創造と同じく、結果には無頓着であるという。世界は究極目的からは自由であり、善も悪も同じく存在する理由を持っている。そういう意味で、芸術に道徳的欲求を求めることを拒否する。これはまさにその通りで自分もおおいに共感するところ。
トルストイもゲーテと同じく自然児でありながら、彼自身の魂を救済するために社会的活動に入ったというわけだ。
この圧倒的な健康さに対して、病患を持った立場から「精神」の力をもって「自然」へ対立し、人間性を高めようと格闘したのが、シラーやドストエフスキーの立場であった。というのがこの著作でトーマス・マンが力説しているところだ。
自分のような心身ともに脆弱でアホで「自然」状態では生存競争に敗れていかざるを得ない人間としては、ゲーテやトルストイの圧倒的な力強さはやはり勘弁してほしく、シラーやドストエフスキーの立場に共感する。しかし「精神」と呼べる程の立派なものはないので、創作結果には無頓着でさらに無内容であることをお許し願いたい。
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