漫画家まどの一哉ブログ
「となり町戦争」
読書
「となり町戦争」 三崎亜記 作
ふつうの街中でいつのまにか戦争をやっていて、日常と非日常が不思議な感じで混ざり合っている。というような設定は自分もぼんやりと考えていて、以前同人誌でためしに描いたこともあった。そんなわけで気になっていた小説。
作中、直接的な戦闘シーンはまったく出てこなくて、主人公は偵察目的でとなり町に侵入しているのだが、それでも町のどこかで戦争は行われていて、知らないうちに人が死んでいく。この戦争自体がまったく役所で管理運営されていて、主人公とペアを組む公務員の女性はてきぱきと仕事として処理して行くのだった。
この不思議な設定を生かすためにすべてのエピソードが組み立てられている。ストーリー進行と解説のために人物が動いているのはエンターテイメントのつくりで、作者の内面や問題意識が反映されるといったふうはない。当然非日常のシーンを活かすために、主人公のごく平凡な日常が多く描かれているが、フツーすぎて個人的には感情移入できなかった。文章は平易で読みやすい。設定以上のおもしろさというものは情景描写や心理描写に巧まずして滲み出ていてほしいものだが、それがうまい具合に常識的な範囲にとどめてあって、なるほどこれならば逆に多くの読者の共感を得るであろうとは思った。
ある程度の長さがあり特殊な設定があり、その設定を盛り上げるためにストーリーが進行するのだけど、欲を言えばやはりなにかしら作者個人の存在が色濃く出ていたほうが、読むのも描くのも面白い。しかしそれを計算して描くのは難しい。
PR