漫画家まどの一哉ブログ
「カブールの燕たち」 ヤスミナ・カドラ
「カブールの燕たち」
ヤスミナ・カドラ 作
(ハヤカワepiブック・プラネット 香川由里子 訳)
タリバン政権下のアフガニスタン。差別的な女性の扱いや様々な重圧にあえぐ人々。やり場のない鬱屈を抱えた2組の夫婦の崩壊までをたどる。
確かにタリバン政権の女性蔑視政策はあまりに酷く、憤りしかないのだが、作品はそれを前面に出して描かれているわけではなく、あくまでも背景に過ぎない。話のほとんどは2組の夫婦の心の移りゆきで、その動揺や困惑はよくここまで書けるなと感心するほど真に迫る。
死刑囚を扱う牢獄の看守である夫と死を前にした病身の妻。夫は病身をおしての妻の献身に逆に暴発してしまう。この屈折はどうしたことか。そして周りの人々に対する暴言や冷徹が自身の受けている重圧を少しでも解放するとは、なんと悲しいふるまいだろうか。
かたや高学歴で栄えある職業につくはずだったもう1組の夫婦。妻は屈辱的なチャドリをつけて外出するのがいやで家にとじこもり、良心的兵役拒否者であった夫は集団心理につられて死刑囚に石を投げてしまう。この夫がもっと強気な意志の固い人物であったとしても、タリバンの取り締まりには逆らえなかっただろう。それが外出した2人に悲劇をもたらした。
それにしてもこれはネタバレになるが、牢獄看守の夫の心の解放のために死刑囚の身代わりとなる妻。それを受け入れてしまう夫は間違っている。あくまで自分を支えてくれた妻に寄り添い守るべきだった。残念だ。
あまりにも苛烈なストーリーは読者である私の体験の範囲をはるかに越えている。このストーリーに負けることなく人間心理を追って行ける作者の筆力に脱帽。
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