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「ろまん燈籠」 太宰治
読書
「ろまん燈籠」太宰治 作
(新潮文庫)

1941~44年にかけて書かれた短編作品を収録。平和に暮らす作家の身辺にもしだいに戦時下の緊張が高まる中、いよいよ筆が冴えてくる。

私小説の伝統がある日本文学では、エッセイのごとく身の回りのことを書いてそのまま小説であると言っても許されるようだが、さすがに太宰は身辺を描いたどの短編をとってもどうしたってれっきとした小説である。基本的には道化で韜晦であるのだが、読み物としての分をわきまえているので気持ち良く読める。公の場所での服装のTPOを失敗する話題が多く、身なりはかなり気にしていたようだ。

私にとって太宰は心地よく読める名人であって、「人間失格」その他主要な作品も少しは読んだが、巷間評価される過度の自虐や嘆き節、その他「太宰の気持ちがわかるのは自分だけ」と言ったような読後感を持ったことはない。作家自身を貶めたり持ち上げたりしても、これくらいなら普通じゃないかという印象だ。

太宰は戦後無頼派として認識していたが、すでに戦中に佳作短編を安定して発表していた。作品の傾向もだんだんお国のための晴れがましい気持ちが描かれてくるようになり、これも時勢というものだろうか。

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