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漫画家まどの一哉ブログ

   
「どん底」
読書
「どん底」
ゴーリキー
 作

社会主義リアリズム劇の古典を文庫本で読んだ。社会主義リアリズムであるからといって、直接的にプロレタリア解放が訴えられるわけではなく、社会の底辺で蠢く貧しい人々が直接的な描写で描かれているというものだ。そりゃそうでなければ面白くないだろうと予断を持って臨んだ。

このリアリズムは単に社会派のそれというだけでなく、会話に細やかなリアルがあった。例えば「なに?だれがいるって?おい……お前なんとか言ったね?」「なんだって?お前_おれに言ってるのか?」「お前、今なんとか言ったじゃねえか?」「あれか、ありゃなんでもねえ……ひとり言よ……」と、このようなやり
取りは説明的な作品なら使わないものだ。それが省かれていないところが良い。

登場人物はみんな心のすさんだ者ばかりで、誰が誰だかちゃんと追わなくても気にならないが、ひとりルカという名前の流れ者の爺さんが個性的で、この爺さんだけが温厚な人の路をとく。これが基本民衆レベルでのキリスト教を根っこにしているのがまたリアル。それはそうで、ここで爺さんが労働者解放を説いてもおかしいだろう。

大きなストーリーは無く、泣いたり喧嘩したり病気したりして、酒を飲んではぶつぶついうというものだが、もしこれがコメディであっても大衆が主人公の集団劇となるとそうなるかもしれない。また階層がどん底でなくてもインテリが出てこなければ、この方法はある種基本形なのかも。

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