漫画家まどの一哉ブログ
「すべての見えない光」 アンソニー・ドーア
「すべての見えない光」
アンソニー・ドーア 作
(新潮クレスト・ブックス 藤井光 訳)
博物館員の父とパリに生きる盲目の少女。ドイツ炭鉱町の孤児院で妹と生きる天才電気工学少年。戦火の中やがて二人が出会うまでの数奇な運命の物語。
ストーリーを形作る道具立が面白い。少女と大叔父が住むフランス、サン・ロマの家の秘密の屋根裏からは、電波に乗せて音楽や極秘の暗号が送られる。ドイツ工業地帯に暮らす少年は自身で修理したラジオからフランスの短波放送を聞き、兵役に就いてからは敵(フランス)の極秘無線を探り当てる旅。少女の父親は博物館員であり、希少なダイヤモンドがナチスの手に渡るのを防ぐために、フェイク含めて4つのうちの一つを託せられる。
これだけの設定があればお話はミステリアスにもスリリングにもなろうというもの。それだけにワクワクと読めるが、なにより主人公の二人が大人に成りかけている少年少女で、大戦下で人生の選択肢はわずかしかない。運命に翻弄されるまだまだ無垢な二人に心奪われ、過酷な状況での無事を祈るばかりだ。
脇を固める人物も個性的で、学校でいじめにあう鳥類学者肌の友人や、兵士として少年と行動を共にする大男の青年。何年も家から出ずに秘密の放送を送る少女の大叔父。隠されたダイヤモンドの行方を追いかけるドイツ人曹長。などなど娯楽的要素満載だが、語り口はあくまで静かで飾らず、二人と周りの人々の優しさが心地良い。戦争は残酷で悪人も登場するが、知的好奇心は二人の未来を開く。そして半分は悲しい未来。
PR