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漫画家まどの一哉ブログ

   
「転落」 カミュ

「転落」
カミュ 作
(光文社古典新訳文庫・前山悠 訳)

自信に満ち溢れて悠々と生きていたはずの弁護士の男は、いかにして落ちぶれたか。その半生を本人が滔々と語る一人称小説。

語り手の男は弱き者のため献身を惜しまぬヒーローとして喝采を受ける毎日。その誇り高き姿は、実は自己愛を動機とする浅はかなものであることがしだいに明らかにされる。ほんとうに困難な人を思いやっているのではなく計算ずくで、周りの礼賛に酔いしれているのだ。
この前半から3分の2くらいまでの進行が、どちらかというと冗長でやや飽きてくる。彼の薄っぺらな人格はすっかりお見通しでなのだから、もっとどんどん進んでくれてけっこうだ。カミュにはいつもそんな感想を持ってしまう。

男はこの悠々たる人生がしだいに自身でも不安になり、この嘘で仕上げた自分に疑問と不安を抱き始めるが、これはたぶん年齢と共に起きてくる現象であろう。誰だってそうだ。そして死が近づくにつれてこの大嘘を抱えたままで黙って死んでしまうのは耐えられない。このあたりからこの作品は一気に加速度をつけて面白くなる。しかしこれは「転落」というほどのことではないと思う。

文庫解説によると当時サルトル・カミュ論争が盛んで、この論争に負けたカミュの鬱屈と憤懣が作品に影響しているらしい。私は小説家としては圧倒的にサルトルを推すが、マルクス主義に寄り添った実存主義なるものは端的につまらないので、カミュにも同情してしまう。

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