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「自由への道」1(分別ざかり) サルトル

「自由への道」1(分別ざかり)
サルトル 作
(岩波文庫 海老坂武・澤田直 訳)

作者自身をモデルにした長編小説。パリの街と彼のまわりにうごめく友人・知人たち。

主人公マチウは一介の高校教師であるにしては、ふだんから知人の間でなにかしら一目置かれているようだ。だがそれがなぜかはまったく見えてこない。マチウが後のサルトル自身のようにアンガジュマンするようなシーンもなく、はっきりしない人物である。それどころか妊娠した恋人マルセルの堕胎費用を捻出する為に走り回っているありさまだ。しかし思想を抱える者とはこういう人格なのかもしれない。

比べて友人・知人たちの方が性格も行動もわかりやすく好感が持てる。なかでも対抗的な位置にいるダニエルは、マチウのように言葉を操る人間ではないが、同じ夜の街をうろつくにしても感情や態度ががはっきりしていて魅力的な人物だ。

後半登場する友人のブリュネがマチウに共産党への入党を薦めるが、ブルジョア出身の立ち位置を捨てられず、思い切りの悪いマチウ。しかし自分のことを気にかけてわざわざ励ましに来てくれた友人への感謝の思いに胸がいっぱいになる。やはり思想家も人情はある。この2人の会話シーンがいちばん面白かった。ここがサルトルの小説の大きな魅力だ。私にとっては。

この第1話の時点ではナチスの影が迫る大戦前のフランス社会はどこへやら、内容はもっぱら私生活周辺から出ない。

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