漫画家まどの一哉ブログ
「門」 夏目漱石
読書
「門」夏目漱石 作
(新潮文庫)
許されない愛に走った2人のその後の人生は?「三四郎」「それから」に続く三部作最後の作品。
何気なくふと読みだすと、平凡な日常会話のやり取りが面白く、ついつい引き込まれて読んでしまった。もっとも話は半ばくらいまで大きな出来事もなく進行し、やや飽きてきた。
「それから」で親類や世間すべてを敵に回して縁を切った2人だから、生活は世間との交流も少ない。お互いをかけがいのないものとして慈愛を深め合ってゆく生き方が静かに胸を打つ。我が家も子供のいない夫婦生活だから他人事とは思えない。
それでも弟を引き取ったり、妻が病気になったりと、ちょっとした起伏はあって面白く読めた。終盤ついに自分が裏切ったかつての友人が近くに現れるいきさつとなり、主人公は大いに動揺するが、彼にアドバイスするならば、これは覚悟を決めるしか仕方がないのではないか。略奪愛が旧道徳に反するといっても、愛に従ったこと自体は悪いことではないし、すでにやってしまった事を今更思い悩んでも救われない。その必要もないと思う。
その流れで彼は禅寺へ短期間の体験修養に出るが、やはりいきなり事態を解決するほどの得心は得られない。それでもこのエピソードはおもしろかった。
「それから」の激震的な内容から比べると静かな内容だが、人生には静かな波風が立つものである。
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