漫画家まどの一哉ブログ
「詐欺師の楽園」 ヴォルフガング・ヒルデスハイマー
読書
「詐欺師の楽園」
ヴォルフガング・ヒルデスハイマー 作
(白水Uブックス)
小国の財政を救ったのは、不世出の贋作作家による架空の画家の業績でっちあげだった。やがて有名画家となった青年はこの悪事に巻き込まれ波乱の人生をおくることとなる。
実在しない過去の画家をでっちあげて国家ぐるみで高額を稼ぐという着想がそもそも面白いのだが、汽車を止められて車掌に現金を要求されたり、国境沿いの河原でスパイ容疑で拘束されたりと、仕掛けも展開も凝っていて興をそがない。
この天才贋作作家が絵に対して生来なんの愛も想像欲も抱いていないという根っからの詐欺師で、この人物の会話シーンが最も生き生きとしている。画家となった青年は手記を書いている時点で、既に死んだことにされて画業から離れているので、いたって虚無的な語り口だ。
ストーリーはたっぷりとあり、意外な展開が続出するくせに文章自体は落ち着いていて、ややノリが悪い気がするが、これも作者が詩人の資質を持ちながら詩人の高みから降りようとする文学運動の担い手であったからか(解説粗ら読み)、違うか…。
PR